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O Ano em Que Meus Pais Saíram de Férias
     1970、忘れない夏

ブラジル映画 (2006)

受賞数32、ノミネート数38、IMDb 7.4、Rotten Tomatoes 81%のブラジル映画の名作。1964年のクーデター後の軍事政権下で反体制派が弾圧される状況をストレートに描くのではなく、あくまで11歳の少年の目を通して描くことで、監督は独自の映像空間を創り上げた。この言葉を、もっと適切に表現している文献がないか探していたら、「Oficina do Historiador, Porto Alegre, EDIPUCRS」という論文集の7巻2号(2014)に、「子供の視点による軍事独裁政権: 映画における表現と社会的想像力~1970、忘れない夏(2006)」(原文はスペイン語)という論文を見つけた。そこに使われていた言葉は、私がこれまでに見た最も難解な文章。その一部を、出来る限り正確に訳すと、「監督は、民意に基いた暴動やその他の理由により個人の権利が制限され、仮借なさによって支配された国家という大宇宙に対し、独裁政権によって確立された例外的状況の影響を受けた個々の小宇宙で形成されたアプローチの一環として、語り手の焦点に子供の視点を選ぶことで、映画を反自然主義の形で描いている」というもの。自然主義とは、醜悪なものも厭わず、現実をありのままに描写するものなので、反自然主義では赤裸々な描写は避けている。戦争、革命、弾圧をテーマにした映画で、子供の視点で語られるものは結構多く、高い評価を受けているものも多い。両者の代表例をあげれば、自然主義的な映画は、五十音順で、「イノセント・ボイス/12歳の戦場」「黄色い星の子供たち」「小さな青いビー玉/ナチスから逃れて」「デュプレシスの孤児たち」「灰色の地平線のかなたに」「バティニョールおじさん」「パワー・オブ・ワン/大きな一つの力」「春の終りの教訓」「ブレスト要塞大攻防戦」「マイ・リトル・ガーデン」(緑字は既紹介)、反自然主義的な映画は、「五月の4日間」「縞模様のパジャマの少年」「ズーキーパー/戦争から動物園を守った飼育係」「太陽の帝国」「友はすべてを分かち合う」「守るべき秘密」「導き手」などがある。前者の方がやや多いような気がする。この映画は、後者の代表作と言えよう。

学期の途中で、急に「休暇」の旅に出ることになった11歳のマウロ。マウロの父はユダヤ人、母は非ユダヤ人。母の希望で、マウロは割礼を受けない非ユダヤの少年として育てられてきた。両親は、彼を、故郷からはかなり離れたサンパウロのユダヤ人地区に住む祖父に預ける。しかし、父が祖父に電話を掛けたのは、預ける日の朝になってから。掛けた先は祖父の床屋。祖父は、すぐに店を閉めるが、開店の時に入って来た客の髭は剃ることにする。そして、その最中に心臓麻痺で他界する。そうとは知らず、父は、祖父の住んでいるアパートの前でマウロを降ろし、そのまま立ち去る。理由は、1970年当時のブラジルの軍事独裁政権からの迫害から逃れるため、じっくり滞在する暇がなかったから。マウロは、鍵の掛かった祖父の部屋の前で待つが、死亡した祖父が現われるはずがない。夕方になり、祖父の部屋の隣に住んでいるユダヤ人のシュロムが帰ってきて、マウロを見つける。そして、マウロが死亡した床屋の孫で、両親はどこに行ったか分からないと知り、愕然とする。祖父の葬儀の後、シュロムはラビに今後の方針を相談に行くが、その間、シュロムの部屋にいたマウロは、祖父の部屋の電話が執拗に鳴っているのに気付き、きっと両親からだと確信して何とか電話に辿り着こうとするが、失敗する。しかし、1階上に住んでいるアンナという少女の話から、管理人が鍵を持っていることを知ったマウロは、亡き祖父の部屋に入ることができた。そして、次の電話を期待して電話機の前に陣取る。帰宅したシュロムは、それを見て、電話機に長いコードを付け、自由に移動できるようにし、取り敢えず、自分の部屋に連れて行く。それからのシーンは、マウロが、ユダヤのコミュニティの中に住まわせられることに徐々に慣れていく様子が、マウロの視点から紹介される。父は別れる時、ワールドカップに戻って来るとマウロに話したが、そのワールドカップの初戦の日となり、マウロは期待に胸を膨らませる。しかし、両親は試合が終わっても現れず、マウロは悲嘆にくれる。ここからは、ブラジルが徐々に勝ち上がっていくタイミングに合わせてストーリーが展開し、その中で、独裁政権による左翼学生の弾圧の様子が、これもマウロの視点からだけ紹介される。結局、両親は、決勝戦が始まるまで姿を見せなかったが、決勝戦のさ中に、数日警察に拘留されていたシュロムがタクシーで帰宅するのを見たマウロが、アパートに戻ると、そこには解放された母もいた。決勝戦の翌日、マウロと母は、亡命の旅に出発する。

主人公のマウロを演じるのは、ミシェル・ジョエルサス(Michel Joelsas)。1995年3月18日生まれなので、撮影時11歳。これが映画初出演。結構演技は上手だと思うのだが、主演男優賞に2つ、子役を対象とした賞に3つノミネートされただけで、受賞は叶わなかった。その後は、主としてTVで活躍し、現在に至っている。

あらすじ

11歳のマウロが、フットメザ〔サッカー選手に見立てた小さな円盤をテーブルの上ではじいてゴールに入れるゲーム〕で遊んでいると(1枚目の写真、矢印はゴールに向かう白く薄い円盤の滑走方向)、母が、「片付けなさい。お父さんがすぐここにみえるわ」と注意する。「ちょっと待ってよ」。母はどこかに電話を掛ける。その会話の中で重要な言葉は、「ううん、彼は、祖父に預けるわ」。父の青いビートルが家に前に停まり、母は大急ぎで来るようマウロに指示する。マウロは、あわててボタンを袋に入れ〔ゴールキーパーの駒2つと、円盤3つを入れ忘れてしまう〕、サッカーボールを持つと走って部屋から出る(2枚目の写真、矢印はゴールキーパーの直方体の駒2個)。車に乗る直前、マウロは、「パパ、すぐ戻るよね。留年したくないから」と言う(3枚目の写真)。「心配するな。ただの短い休暇だ」。車が出発すると、「ベロオリゾンテ(Belo Horizonte)、1970年」と表示される。サンパウロの約480キロ北東にある人口240万人の州都だ。
  
  
  

父は、途中でカーラジオを付ける。「誰が、ペレと攻撃を組むのがベストか? 私はザガロには賛成だが、トスタンには反対だ。トスタンとペレは合わない」。これを聞いたマウロは、「なぜ、トスタンとペレは合わないの?」と父に尋ね、父は、「でたらめだ。こいつはロクなことしか言わん」と批判する〔映画の中ほどで、この会話が生きる〕。旅行は途中で夜となり、ベロオリゾンテから300キロ少し走った場所で、一家はホテルで1泊。ダブルベッドの真ん中に入ったマウロは、すぐ右隣りの父に 「パパ、僕 眠れない」と訴える(1枚目の写真)。「パパもだ」。その直後のシーン、翌朝、マウロの父は、途中見つけた “電話を掛けられる場所” で車を停め、「パパ、そっちへマウロを連れてくよ」(2枚目の写真)「うん、パパ。仕方ないんだ。他にないから。いいだろ? すぐ着くから。じゃあ」と父親〔マウロの祖父〕に電話する。そして、車はサンパウロの中心街を通り抜ける(3枚目の写真)。そして向かった先は、都心の中でも、20世紀初頭に最初のアシュケナージ〔東ヨーロッパ〕移民が到着した古いユダヤ人地区のボン・レチーロ(Bom Retiro)。
  
  
  

車が着いたのは、4階建ての古いアパートの前。車から降りたマウロの前を救急車が通過していく〔重要な伏線〕。母は、マウロに 「すぐに戻ってくるから」と言う。「こんなトコ いたくないよ」(1枚目の写真)。「そのことは、もう話したでしょ」。「でも、イヤなんだ」。父は 「私のパパは、お前を待ってるぞ」と言い(2枚目の写真)、母も 「お願い、分って。やりたくて、こんなことするんじゃないの」と頼む。「いつ戻ってくるの?」。父は、サッカーボールを渡しながら、「ワールドカップだ。すべてが上手くいけば、ワールドカップには戻って来れる」と言う。「それまで、だいぶ時間があるよ」。この不満には答えず、父は 「忘れるんじゃないぞ。私たちは、休暇中なんだ。休暇でここに来た。いいな?」と念を押す。そして、息子に抱き着いてなかなか離れない妻を、「行くぞ、急げ」と急き立てる。車は、マウロを祖父のアパートの玄関先に残したまま、慌ただしく去っていく(3枚目の写真)。
  
  
  

車の姿が見えなくなると、マウロは、小型のトランクと、サッカーボールを持って 開けっ放しになった玄関から 薄暗い廊下に入って行く。途中で、ドアが開き、少女とその母親が出て来る。この少女は、後でマウロの友達になる重要な登場人物で、名前はアンナもしくはアナレ〔ユダヤ名〕。アンナはマウロを一目見て気に入る。2人が出てきた場所は、蛇腹のある旧式のエレベーター。マウロは、どうしていいか分からず、ドアを閉めて階段を使うことにする。3階まで上がったところで、廊下を歩き出し、一番奥(玄関の真上)まで行き(1枚目の写真)、右側のドアのベルを鳴らす。返事がないのでドアを叩く。ベルを何度も繰り返して押す。トランクに腰かけて、渡された紙を見て、名前が合っているか確かめる(2枚目の写真)。間違いがないので、後は待つしかない。最初は、廊下でサッカーボールを蹴って時間を潰し、次いで、トランクを開けて中からフットメザを取り出すが、そこで初めて大事なものを忘れてきたことに気付く(3枚目の写真)。それでも、円盤を弾くことくらいはできるので、床の上に膝をついて遊ぶ。それに飽きると、サッカー選手のカードを一杯貼ったノートを見、そのうちに、眠くなって寝てしまう。
  
  
  

マウロは、エレベーターの蛇腹が開く音で目が覚める。廊下をこちらの方へ歩いてきたのはシュロムというポーランド系ユダヤ人の老人(1枚目の写真)。マウロは祖父かと期待するが、1つ手前のドアの鍵を開けようとしたのでがっかり。しかも、その老人は、マウロを見て、ここがブラジルにもかかわらず、訳の分からない言葉〔イディッシュ語〕で叱り、マウロは ますます愕然とする。シュロムはそのまま部屋に入ってしまう。しかし、マウロが、再度、しつこくベルを鳴らし、ドアを何度もノックし、最後は脚で蹴っていると、部屋から出て来て、また何事か文句を言う。マウロは「ふざけるな」〔ポルトガル語の字幕は「Xixi é sua mãe!」。マウロはこの通り発音している。しかし、この意味はポルトガル語のネットを見ても不明。個々の単語を直訳すれば「あんたの母さんのおしっこ」なので、侮辱する言葉であることは確か。ここでは、英語字幕に従った〕と言い、それを聞いたシュロムは、「何だと?」と、初めてポルトガル語で話す。「別に」。「お前、誰だ? 何て名前だ」。「マウロ」。「ここで何しとる?」。「お祖父ちゃんの所に泊まりに」(2枚目の写真)。「どんな、お祖父ちゃんだ?」。「モートル」。「お母さんはどこだ? お父さんは?」。マウロは黙ったまま。シュロムは、大変なことになったと、思わず顔を伏せる(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、次に映るのは、モートルの埋葬のシーン。マウロもシュロムと一緒に参列し、ユダヤ式に行われる(1枚目の写真)。そして、この映画で唯一、過去の場面が挿入される。①モートルは1人で床屋をやっていて、客が1人入って来た時は 電話で話している最中。「今日? 今日じゃなくちゃいかんのか?」。すると、マウロの父がサンパウロの手前で電話を掛けていた場面が、逆方法の角度から映される。「うん、パパ。仕方ないんだ。他にないから。いいだろ?」(2枚目の写真)「すぐ着くから。じゃあ」。「ああ」。モートルが時計を見ると、ちょうど朝の9時。それでも、店のドアに「FECHADO(閉店)」という札を掛け、既に席に着いた客の髭だけ剃り始める。顔に泡立てた石鹸を塗り、理容カミソリで半分ほど剃ったところでモートルは心臓麻痺で床に倒れる。そのショックで客の頬の一部が切れる。客が救急車を呼び、その救急車が通過して行った後で、マウロと母の姿が映る(3枚目の写真、矢印は救急車の後部)〔アパートに最初に着いた場面でも、これを同じシーンがあったのだが、ダブるのでここで使用した〕。この短い過去の場面から、マウロが滞在することになっていた祖父モートルは、マウロがアパートに着く数分前に死んだことが分かる。そして、それを知らずに、いわば、放置する形で両親は去って行った。
  
  
  

シュロムがラビと相談に行っている間、マウロはシュロムの部屋で待っている。すると、隣のモートルの部屋で電話が鳴り出す。これはきっと両親からの電話に違いないと確信したマウロは、廊下に出て、モートルの部屋のドアまで駆け付けると、部屋の中から電話の音が聞こえる。しかし、ドアには鍵が掛かっている。そこで、マウロはシュロムの部屋に戻ると、廊下と反対側の吹き抜け〔何もない殺風景な空間〕に面した窓から出て、モートルの部屋に入ろうとする。しかし、それは甚だ危険な行為で、またまた1階部分でコンクリートの床の掃除をしていた管理人が気付き、「そこで何をしとる! 戻れ! やめろ!」と怒鳴る(2枚目の写真)。シュロムの部屋の1つ上の部屋に住んでいるアンナは、それを見て大急ぎでシュロムの部屋に行き、「どこに行く気なの?」と声を掛け、長く鳴り続けた電話も止まってしまう。マウロは仕方なしにシュロムの部屋に戻り、「お祖父ちゃんの部屋に入ろうとしたんだ」と言う(3枚目の写真)。「なら、ドアから入ればいいじゃない。マシャードさんが、全部の部屋の鍵を持ってるわ」。
  
  
  

マウロは、吹き抜けの床掃除をしていた管理人のマシャードに頼んでモートルの部屋のドアを開けてもらう。マウロは開いたドアに立って中を見回す(1枚目の写真)。そのすぐ後、部屋の中の全景とともに、ドアの入口に立つマウロの映像に切り替わる(2枚目の写真、矢印は電話機)。マウロは電話機を見つけると、ひょっとしたらと思い、ベロオリゾンテの自宅に電話を掛けて見るが、誰も出ない(3枚目の写真)。マウロは、また電話が掛かってくるかもしれないと思い、そのまま電話機の前で待機する。
  
  
  

ラビの所から帰って来たシュロムは、モートルの部屋で 電話機の前にじっと座っているマウロを見つける。彼がまずしたことは、部屋の鏡を布で覆うこと〔それが ユダヤの風習だと書いてあった〕。その後で、マウロの様子を再度観察する(1枚目の写真、矢印は電話機)。恐らく、マウロから何があったのか訊いたシュロムは、電話機のコードを外すと、長い延長コードに接続し、そのコードを自分の部屋まで引っ張って行く。こうすれば、マウロを自分の部屋に置いた状態で、モートルに掛かってくる電話に出ることができる。工事が終わった頃には、マウロは、長椅子の脇に電話機を置いた状態で、安心して眠っている(2枚目の写真、矢印は電話機)。翌朝マウロが目を覚ますと、シュロムが旧約聖書を読み上げている。マウロに見られていると分かると、不愛想にドアをバタンと閉める。それが終わると、イディッシュ語で語りかけながら、鉢植えの植物に水をやる。次のシーンでは、シュロムがシャワー室に入って、歌いながらシャワーを浴びている。急にトイレに行きたくなったマウロが、ドアを叩いてもシャワーの音と歌声で聞こえない。我慢できなくなったマウロは、先ほどシュロムが水をやっていた植物に向かって放尿する(3枚目の写真)。ところが、運悪く、シャワーを終えて出てきたシュロムに、それを見られてしまう。シュロムは、イディッシュ語で咎めるような口調で何か言う。マウロは、放尿を叱られたと思い、「ごめん。待ってられなかった」と謝るが、シュロムが指摘したのは別のことだった。「割礼! お前、割礼をやってない! ユダヤじゃない、異教徒だ」。
  
  
  

そして、朝食。置いてあったパンは、ユダヤらしいカットされたライ麦パン。初体験のマウロは、齧ってみて、あまりの酸っぱさに(1枚目の写真)、一口で食べるのを止める。シュロムが、マウロの陶器のコップにコーヒーを注いだので(2枚目の写真)、「ミルクないの?」と訊く。シュロムは、うるさい奴だと思いながら、無言で立ち上がると、冷蔵庫からミルクの入ったボトルを取り出してテーブルの上に置く。容器に触ったマウロが、「冷たいよ」と、温めるよう示唆しても何も言わない〔ミルクを注ぐコップも出してくれない〕。マウロが何もしないでいると、今度は、布を被せてあった皿から中身を取り出して小皿に乗せる。それを見たマウロは、「朝から魚 食べるの?」と、如何にも嫌そうに訊く〔ユダヤは豚肉を食べないので、代わりに朝食に魚を食べることが多い〕。シュロムは、その小皿をマウロの前に置くと、「食べろ。頭に利く」と言う。マウロはフォークで突き刺してみた後、鼻を近づけて臭いを嗅ぎ(3枚目の写真)、「おえっ」と言うと、立ち上がって席を外す。それを見たシュロムは、イディッシュ語でブツブツ。
  
  
  

マウロが、長椅子の前のテーブルの上にフットメザの円盤を出し、ゴールキーパーの直方体の駒の代わりにマッチ箱を置いて遊ぼうとすると、「気を付けろ。マッチで遊ぶな」と注意されるが、「ゴールキーパーを忘れてきちゃった」と言い、気にせず玉をゴールに向かって弾く(1枚目の写真、矢印は玉)。シュロムは、「私が戻るまで、何も触るなよ」と言って、出かける。マウロは、そんな警告は無視し、ヘブライ文字のタイプライターのキーを押してみたりするが、窓〔昨日入ろうとした窓ではなく、路地に面した窓〕からサッカーボールを蹴る音が聞こえたので、下を覗いて見る。そこには、3人の同世代の少年がいて、そこにアンナがやって来て、「来て。遅れるわ」と声を掛け、どこかに連れて行く。何もすることがなくなったマウロは、モートルの部屋に行き、イスの背に掛けてあったきれいなタッリート〔礼拝の時に着用する布製の肩掛け〕を背中から腰にかけて巻き付けると、廊下に出て、サッカーボールを蹴って遊ぶ。そこに、シュロムが帰ってきて、タッリートが かくもひどい使われ方をしているのを見ると、頭に来て、マウロの頬を思い切り強く引っ叩き(2枚目の写真)、「敬意もないのか?」と咎める。意味の分からないマウロは、叩かれたことに腹を立て、階段を降りて行く。その後、地区に住むユダヤ人の集会が持たれる。そこで問題となったのは、マウロが異教徒だということ。ある女性は、イディッシュ語で「その子の母親はユダヤじゃないの?」と質問し、一番の強硬派からは、「違う! 父親だけだ。孤児院に送っちまえ、シュロム!」との発言。これには、シュロムも反対する。別の女性は、「モートルの孫よ」と庇う。強硬派:「なら、簡単だ。その子をあんたの家に引き取ったらどうだ? それとも。そっちのあんたの?」。当然、誰も手を上げない。強硬派:「誰一人、欲しがらん」。ここで、ラビが口を出す。「ちょっと待った。問題はその子じゃなく、なぜ両親が帰って来ないかじゃ」。強硬派:「ラビは、彼らが政治にのめり込んでいると?」。女性:「ダニエル・シュテイン〔マウロの父〕は共産主義者になったのよ」。男性:「バカ言うんじゃない。今じゃ、誰でも共産主義者扱いか?」。ラビが立ち上がる。「ちょっと待った。話が、一線を越えたようだ。モートルの息子ダニエルは、休暇中だと話しとる。みんな、誤解してはならん。休暇中じゃ! そして、あんた、シュロム。もし、神が、あんたのドアに少年を置いていかれたのなら、意味するのはただ一つ。モーゼの話を忘れたのかね?」(3枚目の写真)〔BC13世紀のエジプト。ユダヤ人の夫婦は、生まれた赤ん坊は全て殺すようにとの命令に反してパピルスの籠に隠してナイル川に流し、その籠を川遊びをしていたファラオの娘が拾いモーゼ(川から引き上げた子)と名付けられ、宮廷で王家の子として育てられた。「ドアに放置」とどう結びつくのか?〕〔モーゼの発音は、ポルトガル語(Moisés)ではモイジェス。イディッシュ語(משה)ではモイシェ。しかし、映画の中でラビはモイシャレと言っている。なぜ?〕
  
  
  

アパートに戻ったシュロムは、自分の部屋を探すがどこにもマウロがいない。その時、彼がいたのはモートルの部屋の窓際のイスの上(1枚目の写真)。シュロムは、鍵の掛かったモートルの部屋のドアをドンドン叩いて、「モイシャレ、寝に来い」と呼ぶが、自分の名ではないので、マウロは完全に無視する。そして、翌朝、シュロムは再びドアをドンドン叩く。目を覚ましたマウロは、ドアに耳を付けて様子を探る(2枚目の写真)。この時、シュロムも、ドアの表側で同じように耳を付けて何か聞こえないか探っている。そして、急に、「坊主」と言ったので、マウロはドアからパッと離れる。シュロムはあきらめて、そのまま外出する。マウロは、ガラス張りのベランダに出て、アパートから出て行くシュロムを見ている。シュロムは、アパートから出た所でアンナの母親と出会い、何事かを伝える(3枚目の写真)。後で、母親がマウロのいるベランダを見上げるので、それがマウロに関することだと分かる。
  
  
  

マウロは、室内に戻ると、他の窓のシャッターを開け、室内を明るくしてから、ワードローブの中からトレモント・ハットを取り出して被ってみる。それが気に入ったので、そのまま被り続け、今度は、棚に置いてあった写真立ての中から、父と祖父が映った写真に目を留め、そのあと、引き出しの中を調べていて、小さな紙箱の中からお札の束を見つける(1枚目の写真)。さらに、黒い皮手袋を見つけ、さっそくはめてみる。その時、ドアをノックする音が聞こえ、外からアンナが 「ねえ、一緒に昼食、食べに来なさいよ」と呼びかける〔先ほど、シュロムがアンナの母に話していたのは、このこと〕。しかし、マウロは、返事もせず、キッチンに行き、モートルが何か残していないか見てみる。最初に見つけたのはパン。しかし、モートルもユダヤなので、ライ麦パン。齧ってみて食べるのを止める(2枚目の写真)。棚の上からフライパンを降ろし、生卵を3~4個割って炒めているうちに、手でフライパンに触れてしまい火傷。卵の上から水をかける。結局、冷めて水浸しになった無残な “卵料理” を、火傷した右手は使えないので、左手で食べることに(3枚目の写真)。しかし、不味くて食べられない。そこに、いきなりドアが開いて、アンナが料理の皿を持って入ってくる。「どうやって入ったんだ?」。アンナは鍵の束を見せて 「マジック」と言う。そして、「ママが焼いたパイ食べて。ヤシの芯で、美味しいわよ」。「お腹空いてない」。「その手、どうしたの?」。アンナは、マウロが背中の後ろに隠した手を引っ張り出し、巻き付けた布を取ると、「火傷? どうしたの?」と訊く(4枚目の写真)。返事はない。あまりの感じの悪さに、「シャワー浴びたの いつなのよ?」と茶化す〔まだ数日しか経っていない〕。「いらぬお世話だ」。ベランダに出て行ったマウロに、アンナは、「私、アンナよ」と名乗る。「知ってる」。「なんで?」。その時、上の階から、母親が「アンナ、アナレ」と呼ぶ声が聞こえ、理由が分かったので マウロに微笑む。「行かないと」。食卓に置いた鍵束を取り上げ、「パイ、食べて」と言ってドアを開けようとする。マウロは、「アンナ、お願いがあるんだけど」と呼び止める。「プラカー誌〔サッカー専門誌〕とワールドカップのカード20パック買ってきてくれる? エヴェラウドのカードだけないんだ」と、お金を渡す。「誰も持ってない。きっと、印刷するの忘れたのよ」。アンナは、そう言うと、マウロの手から1クルゼイロ紙幣を1枚手数料として抜き取る〔ブラジルは、長期にわたるインフレのため、1967年に1新クルゼイロ=1000クルゼイロ、1970年に1クルゼイロ=1 新クルゼイロ、1986年に1クルザード=1000クルゼイロ、1989年に1新クルザード=1000クルザード、1990年に1クルゼイロ=1新ルザード、1993年に1クルゼイロ・レアル=1000クルゼイロ、1994年に1レアル=2750クルゼイロ・レアルと、何度も通貨の名称を変えて現在のレアルに到達した。だから、この時点での1クルゼイロ紙幣の価値は不明〕
  
  
  
  

マウロが、絨毯の上に寝っ転がり、足をテーブルに乗せた “お行儀の悪い” 姿でTVを見ていると、鍵を掛け忘れたドアからシュロムが入って来て、「腹が空いたか、モイシャレ?」と訊く。マウロは、シュロムの来る音で、素早くテーブルから足を降ろしていたが、「僕は、マウロだ」と言うと、抗議の意味を込めて、元通りの “お行儀の悪い” 姿に(1枚目の写真)〔この時点で、電話機はマウロの部屋に戻ってきている(矢印)。どこにでも動かすことができるようだ〕。シュロムは 「何だそれは? テーブルを壊す気か?」と叱るが、マウロは 「僕のテーブルだ。お祖父ちゃんのだ。好きなようにする」と、反論する(2枚目の写真)。シュロムは、イディッシュ語でブツブツ言うと 部屋から出て行く。そのあと、2人は、廊下と反対側の吹き抜けに面した部屋に行き、同時に夕食を食べる〔マウロの食事は、シュロムが、最初に入って来た時に持って来てくれたのか?〕
  
  
  

翌日、マウロがフットメザで遊んでいると、アンナが入ってきて、「あんた、サッカーやれるの?」と訊く。「もちろん」。そして、円盤をゴールに入れる(1枚目の写真、矢印はゴール寸前の円盤)。「これじゃない。本物よ」。「やれるさ」。「上手なの?」。「学校のチームに入ってたんだ」。それでも半信半疑のアンナに、マウロはボールを使った足技を見せる。「わお、上手なのね! 私、もう行くけど、一緒に来ない?」。「できない」。「どうして?」。マウロは電話機をチラと見て、「忙しい」と答える。アンナが出て行った後、マウロはイスに座って電話機を見る(2枚目の写真)。掛かってきたのは、1度だけ。あれから、ずっと待っているが、一度も掛かって来なかった。そこで、マウロは、電話のことはあきらめることにして、玄関まで走って行き、その先にいたアンナを追いかける。「やあ」。「気が変わったの? パパやママは?」。「僕と一緒にワールドカップを観るために戻ってくる」。マウロを連れたアンナは、以前 見かけた3人の少年が待っている所に 近づいて行く。「遅かったな」。「待ってたぞ」。アンナ:「文句言わない」。「そいつ、誰だ?」。「友だちのマウロ」。そして、マウロには、「こっちは、ボーリス、カーコ、デューダ。お得意さんたち」と紹介する〔友達とは言わない〕。「知ってるぞ、異教徒なんだろ?」。「父さんは刑務所だ」。「違うぞ、ボーリス。もう出たんだ」〔あの集会に出ていなかった子供達にも噂は広がっている〕。アンナは、3人からお金を徴収すると、鉄扉を開けて中に入れる(3枚目の写真)。「マウロも入って。1回目はタダよ」。5人は洋服屋の倉庫の中を通り、一番奥まで行くと、アンナが袋を出して、3人に紙を選ばせる。紙には、1~3までの番号が書いてあり、3人の “お得意さん” は、それぞれの番号の書いてある “覗き穴” の前に並ぶ。そこから見えるのは、アンナの母が経営する女性服店の様子。それぞれの覗き穴が、個別の試着室に繋がっている。④の穴はないので、マウロには何が起きているのか分からない(4枚目の写真)。若い女性が試着しようかと迷っていると、そこに、服を持った中高年の女性が3人やって来る。耐えられなくなった3人は覗き穴を閉め、「金返せ」と言うが、アンナの返事は「ノー」。
  
  
  
  

アンナは 母の仕事の手伝いに行き、マウロは 他の3人と一緒に通りに出される。3人は、マウロをからかってやろうと、「来い、マウロ」と言って 走り始める(1枚目の写真)。マウロは、途中で3人を見失うが、それは相手がわざと隠れたから。追ってこさせることが目的なので、途中で再度姿を現し、「来い、マウロ」と煽動する。マウロは見知らぬ通りの真ん中を走って追いかける(2枚目の写真、2つの矢印はマウロと3人)。3人は、1軒のカフェ・バーに入って行き、そのまま裏口から出て行く。少し遅れて着いたマウロは、店の中を覗いてみる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

確かに中に入ったはずなので、店に入って行き、いないかどうか探す。店主の娘のカウンター係のイレーニが、可愛い坊やが入って来たので、笑顔で、「今日は」と声を掛ける(1枚目の写真)。「何か欲しい?」。「水」。「今、持って来るわ」。横では、数人の男達がサッカーの話をしている。そのうちの1人が、「なあ、イレーニ、どう思う? そこのカロアは、ペレとトスタンは合わないって思ってる。ハブソンは、カロアはナンセンスだと言ってる。君の意見は?」と尋ねる。イレーニから水をもらったマウロが、代わりに答える。「カロアは何も知らないんだと思うよ」(2枚目の写真)〔冒頭の車の中のシーンで、父が話したこと〕。カロア以外は、「ガキまで、そう思ってるぞ」と大喜び。イレーニは、「あなた、ここら辺の子?」と訊く。マウロは、自分がどこにいるか分からないので、「モートルがどこに住んでるか知ってる?」と訊き返す。男達の1人が、「床屋の?」と訊く。最初の男が、天を指差して 「彼は引っ越した」と教える。「僕、その孫だけど」。これで、指差した男は、拙いことをしたと反省する。逆に、それまで新聞を読んでいた若い男(イタロ)が、その言葉にハッと頭を上げる。「でも、僕、アパートに帰る道、知らないの」。イレーニは、「ちょっと待ってて、連れてってあげる」と親切に言ってくれる。イレーニがいなくなると、イタロが寄って来て、「君は、ダニエル・シュテインの息子か?」と訊く。「うん」。「俺は、君のパパの友だちだ」(3枚目の写真)。「今、休暇中だよ」(4枚目の写真)。「ああ、聞いた」。イレーニが、父に、「子供を家まで連れてったら、すぐ帰って来るわ」と言って、マウロと一緒に店を出て行こうとすると、イタロは 「何かあったら、俺に相談に来いよ」と声をかける。
  
  
  
  

マウロは、親切なイレーニが大好きになる(1枚目の写真)。2人は、何事か楽しそうに話しながら街を歩いたあと、アンナの店のショーウインドーに飾ってある服を見て、イレーニが 「きれいな服ね。どう思う?」と訊くと、ニコニコしながら 「すごく、かっこいい」と答える。そして、遂に、アパートの前。そこには、アンナと3人の少年たちがいた。イレーニが、「今日は、アンナ」とご機嫌で声を掛けるが、アンナは、マウロが一緒なのであまり嬉しそうではない。イレーニは、3人にも「今日は」と声をかけ、3人は「今日は、イレーニ」と嬉しそうに応える。アンナは、「どこにいたの?」とマウロに訊く。「散歩さ」。そこに、イレーニの彼氏がオートバイでやって来る。イレーニは、マウロの顎に触ると、「店に試合を見に来てね」と言って、頬にキスする(2枚目の写真)。それを見た4人は、全員面白くなさそうな顔に。オートバイの後ろに乗ったイレーニは、アンナに、「ママに、服を選びに行くって言っといて」と言うと、彼氏と一緒に店に向かう。“やった” とばかりの優越感に浸った顔で玄関に向かうマウロに対し、アンナは、「彼女、あんたのママにもなれる年なのよ」と声をかける(3枚目の写真)。
  
  
  

最高に機嫌のいいマウロは、玄関を入ったところにある郵便受けのシュロムのボックスに郵便物が溜まっているのを見つけると、それを持って3階まで行き、ドアの下に置き、ドアを叩いてから、廊下を走って自分の部屋に逃げ込む。ドアを開けたシュロムは、マットの上に郵便物が置いてあるのを見て、マウロが置いて行ったのだと分かる。そこで、郵便物を持ったままマウロの部屋のドアを開けると、「食べに来い、モイシャレ」と呼ぶ。そして、次のシーンは、シュロムと一緒に夕食を食べるマウロ(1枚目の写真)。マウロは、食べ終わると、「シャワーを使うよ」と言い出す〔アンナに指摘された後も、これまで一度もシャワーを浴びなかった〕。裸になってシャワーを浴びようとすると、水しか出て来ない。そこで、「水が冷たいよ!」と叫ぶが通じない。そこで、腰の周りにバスタオルを巻き付けてシュロムの書斎のドアを開けると、「水が冷たいよ」と訴える(2枚目の写真)。「風邪をひかなくなるぞ」。そこで、マウリは仕方なく冷水シャワーを浴びるが、寒くて体を震わせながらの難行だ(3枚目の写真)。
  
  
  

マウロのナレーションが入る。「時は流れ、ワールドカップは近づいたが、両親から何の沙汰もなかった。毎日、朝食と夕食は、シュロムのところでさんざんだったが、昼食は、いろんな家でご馳走になった」。1枚目の写真の家では、真向いの伯母さんが、「パパ、そっくりね」「残しちゃダメよ。すごく痩せてるから、よく食べて、体重を増やさなきゃ」と言っている。2枚目の写真の家では、主人が 「ローザ 肉を持ってきて」と言い、奥さんが 「ほら、ステーキよ」と言ってマウロの皿に入れる〔テーブルに水しかなく、ミルクがないのは、「肉を食べた場合は6時間以内に乳製品を食べてはいけない」という決まりがあるからとか…〕。3枚目の写真は、アンナの家。母が 「さあ食べて、マウロ」と言うと、アンナが 「さあ食べて、モイシャレ」と茶化し、マウロは 「モイシャレは君だ」と反論する。4枚目の写真の家では、マウロが 「モイシャレって何ですか?」と、目の悪い夫人に訊く。「モイシャレは、ファラオが殺そうとした生後.3ヶ月の赤ちゃんだったの」と言いながら、皿ではなく、テーブルの上に切り分けたパイを置く。マウロは、急いでパイを皿に乗せると、それからあとは、夫人が適当に置く食べ物の下に皿を持って行き、水を入れるコップもちゃんとポットの真下で待ち受ける。モイシャレについての話が終わった後で、マウロは、「もし僕がモイシャレなら、ファラオの娘は誰になるの?」と訊く。そして、その日の夕食、マウロはシュロムを面白そうな顔で見ていて注意される〔モイシャレの入った籠を拾ったのがファラオの娘。だから、ドアの前にいたマウロを拾ったシュロムが、ファラオの娘に該当する〕
  
  
  
  

そして、ワールドカップの初戦の開催日。「待ちに待った日が来た。1970年6月3日、全ブラジルが停止した」。すべての店のシャッターが下ろされる。マウロは朝食を片付けると、部屋の中を掃除し、体をきれいに洗ってから髪を梳かす。そして、お腹を引っ込ませて男らしく見せる(1枚目の写真)。「チェコのゴールキーパーは可哀想だ。ペレとトスタンを相手にするなんて」。マウロが、バルコニーで、早く青いビートルが現われないかと眺めていると、下から、アンナが、「マウロ、試合を見にカフェへ行かない?」と声を掛ける。「できないよ。両親が来るんだ」(2枚目の写真)。「メモを残したら?」。「できないよ」。アンナと3人はイレーニのカフェに走って行く。モートルの部屋にはTVがあるので、マウロはスイッチを点ける。すると、シュロムが新聞を持って入って来ると、マウロのイスの隣にある長椅子に座って新聞を読み出す。TVでは試合前に整列した選手を順に映している。試合が始まり、マウロはTVの前の床に座る〔それでも、シュロムは新聞を見ている。何のためにマウロの部屋に来たのだろう? 両親に会うため?〕。マウロは、TVを見ながら、声を出して声援する。そして、最初に、チェコがゴールを決め、面白くないマウロは、ベランダに行ってビートルを捜す。TVに戻ったマウロが、ペレが倒されたのを見て、「ファウルだよ」と文句を言う(3枚目の写真)。そして、ファウルが認められ、フリーキックの結果、ゴール。マウロは「ゴールだ! ゴールだ!」と部屋中を走り回って大喜び〔他のユダヤの老人たちも興奮しているのに、未だに新聞を見ているシュロムは余程の変人?〕。そして、今度はペレのゴール。マウロは雄叫びを上げる(4枚目の写真)。そして、さらに4点目〔歴史的にも、グループCの初戦で、ブラジルは4対1でチェコを破っている〕
  
  
  
  

試合が決まってしまうと、マウロはバルコニーでずっとビートルを探し続ける。そして、最終的に4対1でブラジルが勝っても、「終わった」と言ってTVを力なく消しただけ。マウロにとっては、勝敗よりも、両親との再会の方が遥かに重要だった。その姿をじっと見ていたモイシャレは、借りてきた移動式折り畳みベッドを自分の部屋に入れると、「お前は、ここで寝ろ、モイシャレ。マシャードさん〔管理人〕が貸してくれた」と告げる(2枚目の写真)。確かに、長椅子で寝るよりは健康的だ。その晩、ベッドに横になった後、何事か考えていたシュロムは、翌朝、荷物をバッグに詰めると、マウロを起こし、「モイシャレ、私は旅行に出かける。私がいない間、マシャードさんがここにいる。いいな?」と話す(3枚目の写真)。「どこに行くの?」。シュロムは、それには応えず、「朝食はできとる」とだけ言う。「いつ戻るの?」。「すぐ戻って来る」。
  
  
  

マウロは、自分の部屋に行くと、自宅に電話を掛ける(1枚目の写真)。しかし、相変わらず、誰も出ない。悲しくなったマウロは、電話機をテーブルから床に捨て、部屋の中で思い切りサッカーボールを蹴り、イスを倒したり、ピアノの鍵盤蓋を叩きつけたりして怒りを発散させた後、部屋の隅に入り込んで悲しみにくれる(2枚目の写真)。長椅子に靴履きのまま横になると、泣き始める(3枚目の写真)。
  
  
  

それから3日後の6月6日。ショックからある程度立ち直ったマウロが、少年達が街路でサッカーボールを蹴って遊んでいるのを、ぼんやり座って見ている。するとそこに、イレーニを乗せた彼氏のオートバイがやってきて、イレーニを降ろす。イレーニが アンナの母の店で服を買いに来たということで、遊んでいた全員が倉庫の中に入りたがるが、アンナはいつもの3人とマウロの4人だけを中に入れる。そして、「4を引いたら、待ってるのよ」と言い、紙を選ばせる。マウロが引いたのは1番。さっそく①と書かれた場所に行き、スライド式の小さな窓を開ける(1枚目の写真)。イレーニは、気に入ったものが幾つか見つかり、試着することに決める(2枚目の写真)。危機感を覚えたアンナは、「ママの手伝いに行くわ」と言って、その場を離れる。イレーニが向かったのは1番の試着室。他の3人は割り込んで見ようとするが、マウロは断固許さず、そのまま見続ける(3枚目の写真)。イレーニは上着のボタンを外し、ブラジャーが見えたところでマウロの瞳が大きく見開かれる(4枚目の写真)。しかし、試着室にアンナが入ってきて、小さな窓の前に立ち、マウロの視界を意図的に遮る。マウロは、アンナに腹を立て、倉庫を出てアパートに戻る。
  
  
  
  

マウロがシュロムの部屋に入ると、テーブルの上にゴールキーパーの駒2つが置いてある。そして、部屋の奥から、2日前に出かけたシュロムが出て来る。マウロは、「誰がゴールキーパー、持って来たの? 僕の家に行ったの?」と訊く。シュロムは、「モイシャレ、話がある」と言って、長椅子に座らせる。そして、「わしは、ベロオリゾンテまで行ってきた」と話し始める(1枚目の写真)。そのあとで何が話されたのかは分からない。翌、6月7日、シュロムはマウロを連れて街を歩き、大学の校舎に入って行く。そして、最初に会った学生に、「イタロさんを知ってるかね?」と訊く。「ええ」。「学生会館はどこ?」。「2階です」。学生会館に入って行くと、イタロは、まずシュロムと握手し、その後ろにいたマウロに気付き、「よく来たな」と歓迎する。シュロムは、「君たち、顔見知り?」と訊く。イタロは、「マウロ、この前会ったよな」とマウロの肩に手を置く(2枚目の写真)。そして、シュロムに、「彼の父を知ってる」と話す。さらに、2人に向かって、「一緒に試合を観に来たのかね?」と訊き、マウロをTVの前のイスに座らせると、シュロムを窓辺に連れて行く。「ここに来ちゃダメですよ。とりわけ、あの子と一緒になんて」と小さな声で話す〔シュロムがイタロのような人物と懇意だとはとても思えないのだが…〕。シュロムは、ベロオリゾンテで入手したと思われる封筒をイタロに渡す。イタロは封筒の中の手紙を開いてシュロムに何か言っている。マウロは、2人が何を話しているのか気になるが、TVが点けられると第2戦のイングランドとの試合の方に目が行ってしまう〔因みに、第2戦は1対0で勝利〕
  
  
  

映画では、6月10日に行われた第3戦については全く触れていないので、次のシーンが何日後なのか分からなに。大学生同士のサッカーの試合がマウロの近所で行われ、そこには、マウロもアンナもイレーニも観戦に来ている。「サンパウロは大きな街だから、世界中から人々が集まってきている」。なぜか、そこにやって来たシュロムが、イレーニに、「イタロはどこだろう?」と訊き、「あそこよ」とフィールドの選手の1人を指差す。「シュロムはポーランド系ユダヤ人。今、彼は、イタリア系のイタロといつも話してる」(2枚目の写真)〔会話の内容はいつも不明〕。そこに、イレーニの彼氏が、いつものオートバイでやってくる。「イレーニのパパはギリシャ人。ボーイフレンドは…」。ここで、初めてヘルメットを外す。「…アフリカ人の孫だと思う」。ボードには、「ユダヤ人 × イタリア人」とチョークで書かれている。「ボン・レチーロのイタリアチームにはスターがたくさんいた。でも、ユダヤチームには秘密兵器がいた」。イレーニの彼氏は、抜群のゴールキーパーだった(3枚目の写真、ジャンプしてボールを弾いたところ)。「突然、僕は、自分がなりたいものを見つけた」(4枚目の写真)「黒くなって飛んでみたい」。
  
  
  

アパートに帰ったマウロは、黒い皮手袋をはめ、ベッドの上でジャンプしながら、壁に投げたボールを取る練習をくり返す(1枚目の写真)。そして、6月14日の準々決勝。アパートの誰かの部屋で、マルロ、アンナ、おばさん2人の計人でTV観戦(2枚目の写真)〔対戦相手はペルーで、4対2で勝利〕。恐らく次の日、シュロムは再びマウロを連れ、イレーニの店に行き、「イタロに用がある」と主人に話す。イタロはそこに現れると、小さな紙きれをシュロムに渡す。そのあと、その紙に書いてあった番号に電話をかけるシュロムのシーンがあるが、意味が全く分からない。そして、6月17日の準決勝。マウロとアンナは、ユダヤ人の老人グループの部屋でTV観戦〔対戦相手はウルグアイで、3対1で勝利〕
  
  
  

恐らく翌日。マウロが、近所の子供達のサッカー試合に、初めてゴールキーパーとして登場(1枚目の写真)。少なくとも1回は、見事にボールをキャッチする。しかし、ゲームの最中、線路の反対側を青いビートルがゆっくりと走っているのに気付く。そうなると、ゴールキーパーの役目を忘れてしまい、じっと車を見続ける(2枚目の写真)。車は停車して、通行人と何か話している。お陰で、ボールは何の阻止も受けずにゴール。みんなに非難されたマウロは、ゲームを放棄して走り出す。跨線橋を走って渡り、ビートルのいる線路の反対側に出ると、全速で後を追って走る(3枚目の写真)。しかし、それに気付いた東洋系の顔立ちの小さな男の子が後ろを向いてマウロを見る。それを見た途端、マウロの期待は一瞬にして消え、その場で悲観して立ち止る(4枚目の写真)。
  
  
  
  

先ほどとは同じ日だとは思えないので〔アンナはゴールキーパーを放棄したマウロにすごく腹を立てていた〕、恐らく、翌日、マウロが自分の部屋でフットメザをして遊んでいると、ドアがノックされる。マウロがドアを開けると、そこにいたのはアンナ。昨日の今日で、何か罵られると思ったマウロは、何も言わずにテーブルに戻る。アンナは、そのまま部屋に入ってくると、何かの入った包装紙を渡す。マウロが中を見ると、それは あんなにマウロが欲しがっていたエヴェラウドのカードだった。「幾ら払えばいいの?」(1枚目の写真)。「要らないわ。誕生日おめでとう」。「でも、誕生日は10月だよ」。アンナは、無関係だとばかりに肩をすくめる(2枚目の写真)。すると、同じドアからシュロムが顔を出し、「おいで、モイシャレ」と呼ぶ。マウロはアンナに感謝の笑みを見せると、サッカー選手のカードを貼ったノートの唯一の空白欄にエヴェラウドのカードを置く(3枚目の写真)。
  
  
  

シュロムが呼んだのは、ユダヤ・コミュニティーの1人の少年のバル・ミツワーに一緒に出席するため(1枚目の写真)。マウロはユダヤ教徒ではないが、黒いキッパを頭に被せ、シュロムと並んで座って見ている(2枚目の写真)。そして、バル・ミツワー後のパーティ。マウロがアンナと並んでイスに座ってみんなが踊っているのを見ていると、マウロをみて気に入った女の子が反対側に座る。そして、ユダヤとは関係のない音楽が始まると、一緒に踊らないかと誘う。しばらく一緒に踊っていたマウロだったが、アンナの悲しそうな顔を見て、一緒に踊っていた女の子から離れると、アンナの前で激しく首を振って踊り始める。それを見たアンナも同じように踊り始め(3枚目の写真)、この2人の踊り方に触発された子供達全員が、同じように踊り始める。
  
  
  

その最中に、馬がパカパカと走る音が外から聞こえてくる。それは、騎馬の警官隊による大学会館の急襲だった(1枚目の写真)。マウロやアンナ達もパーティを投げ出し、外に出て、後を追う。マウロが、人混みをかき分けて最前列まで出ると、そこでは、建物から駆り出された大学生が警察の車に次々と送り込まれる強権的なシーンが展開していた(2・3枚目の写真)〔軍事政権による反体制派の弾圧を示す唯一のシーン〕
  
  
  

様子を見に来た “非大学生” のイレーニの彼氏がマウロを見つけ、放っておくと危険だと考え、その場から連れ出す。そして、オートバイに乗せてアパートの前まで送る。このゴールキーパーの天才は、「気を付けろ、チャピオン」と言って握手すると(1枚目の写真)、嬉しそうなマウロを置いて去っていく。マウロがアパートの玄関から入り、階段を上がろうとすると、奥で音がする。「誰かいるの?」と言い、見に行くと、そこに隠れていたのはイタロで、額に怪我を負っていた。マウロはイタロを自分の部屋に連れて行き、長椅子に座らせると(2枚目の写真)、すぐにシュロムを呼びに行く。シュロムは、窓のカーテンを全て閉め、自分の部屋に戻る。翌朝、マウロはイタロを自分の朝食に招待する。「全部自分でやったのか?」。「うん」。食卓の上に乗っていたのは、①ライ麦パン、②魚、③ミルク。③だけが、最初のシュロムの部屋でのおぞましいメニューと違うだだけ。ただし、イタロ用にコーヒーも持って来る。「これ、魚か?」。「頭に利くんだって」(3枚目の写真)〔シュロムと朝食を共にして慣れた?〕
  
  
  

「フットメザできる?」。「マウロ、そんな気分じゃないんだ」。「おびえてる?」。その言葉で、2人はフットメザを始める。ゲームをしながら、マウロは、「僕の両親のこと、何か知ってる? どこにいるの?」と訊く。答えたくないイタロは、「休暇中じゃなかったのか?」と誤魔化す。「そうだね」。「マウロ、多くの人々が、君の両親のように休暇中なんだ」。「でも、戻って来るの?」(1枚目の写真)。「もちろんだとも」。その時、誰かがドアをノックする。イタロは、「誰だか見て来い。俺がここにいるとは言うな」と囁き、ドアから見えない場所に隠れる。マウロが ドアチェーンを付けたまま鍵を開けると、外にいたのは、如何にも秘密警察らしい私服の男2人。「ジェロームはいるか?」。マウロ:「誰?」。もう1人が「シェローム」と言い直す。マウロ:「シュロム?」。「いるか?」。マウロ:「ううん、ここはモートルの部屋だよ」。「隣だ」。マウロは、2人が去っていく様子を見ている(2枚目の写真、矢印はドアチェーン)。マウロがドアを閉めて戻ると、イタロは、「俺を捜してたのか?」と訊く。「ううん、シュロムだよ」。声が大きかったので、「声が大きい。奴らポリ公だ」と、イタロが注意する。心配になったマウロは、廊下と反対側の吹き抜けに面した窓から出てシュロムの部屋に入るが、そこには誰もいない。自分の部屋に戻って来たマウロは、「シュロムが連れてかれた!」と言い、カーテンの隙間から外を見ると、シュロムが連行されて行く(3枚目の写真)。「何されるのかな? 助ける手立てはないの?」。「俺には何もできん。俺も休暇に行くことにする」。
  
  
  

マウロは、アパートを飛び出し、ラビに助けを求める。「シュロムが逮捕されちゃった」(1枚目の写真)。「モイシャレ、お前は若い。家に帰れ。私が対処する」。一方、警察では、シュロムが、「お前の年で共産主義者に転向か? あの女〔誰のこと?〕の親戚か? 歯ブラシは持って来たか? すぐには終わらんぞ」と言われている。部屋でしばらく考えていたマウロは、シュロムの部屋に行き、植物に水をやったり(2枚目の写真)、食卓をきれいに掃除したりする(3枚目の写真)。
  
  
  

準決勝から4日目の6月21日。イタリアとの決勝の日。「ワールドカップには戻って来れる」の言葉の最終期限が今日。マウロは、ベランダに立って青いビートルが来ないか、じっと見ている(1枚目の写真)。すると、ドアが開き、アンナが、「行くわよ、マウロ、試合が始まる」と呼ぶ。マウロは、後髪が引かれる思いでベランダを離れ、アンナと一緒にイレーニのカフェに行く。マウロは、イレーニと天才ゴールキーパーの間に座るが、あまり元気がない(2枚目の写真)。しかし、先制得点をあげると、もう塞いではいられない(3枚目の写真)。
  
  
  

イタリアに1点返され、静かになったところで、たまたま道路を見たアンナが、店の前をゆっくりと進んで行くタクシーにシュロムが乗っているのに気付く。そして、マウロに、「シュロモだわ」と教える。マウロはタクシーを見て(1枚目の写真)、店の中がブラジルのゴールで沸き立つ中、店を出てアパートに向かって歩いて行く(2枚目の写真)。シュロモの部屋に入って行ったマウロは、キッチンにいるシュロモを見つけて抱き着く(3枚目の写真)。
  
  
  

シュロモは、「一緒においで」と言い、部屋を出て、マウロの部屋に連れて行く。ドアを開けると、白衣の医者がいた。そして、奥の寝室に入ると、ベッドにはマウロの母が寝ていた(1枚目の写真)。マウロは母の前に跪き、母の手を握り、「ママ」と声を掛ける。目を開けた母は、マウロを見て、「会いたかったわ」とほほ笑む(2枚目の写真)。マウロは母に抱き着き、「なんでこんなに時間がかかったの? パパはどこ?」と訊く(3枚目の写真)。母は、涙を流す。それを見て、マウロにも、何が起きたか予想が着き、再び母に抱き締められる。その頃、メキシコシティのスタジアムでは、4対1でイタリアを下したブラジルの選手達が勝利を祝っていた。
  
  
  

翌日、シュロモはマウロと一緒に公園に行き、2人で並んでいる姿を写真屋に撮ってもらう(1枚目の写真)。アパートに戻ったマウロは、トランクに荷物を詰め、お気に入りのトレモント・ハットを被り、最後に室内を見収めに眺める(2枚目の写真)。そして、玄関で待っていたアンナにサッカーボールを渡し、「あげる。誕生日おめでとう」と言う(3枚目の写真)。
  
  
  

母と一緒にタクシーに乗ったマウロは、手を上げてシュロモにさようならの挨拶をする(1枚目の写真)。タクシーが動き出しても、マウロは、名残惜しそうに リヤウィンドウから、シュロモ、アンナとその友達3人の姿を眺める(2枚目の写真)。そして、最後のナレーション。「望んでもいなかったし、理解もしてなかったけど、僕は、亡命者と呼ばれる者になってしまった」(3枚目の写真)〔警察官が、シュロムに 「あの女の親戚か?」と訊いた時の “女” とは、警察が既に逮捕していた “マウロの母” のことであり、恐らく、ラビの仲介もあり、サッカーの決勝戦の日にマウロの母は、シュロムが預かっているマウロを連れて国外追放されることを前提に釈放されたのであろう〕
  
  
  

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